August 2006
August 31, 2006
ゼロの使い魔SS「ご主人様の憂鬱」第10話
ホーエンローエとかえでは1頭の馬に相乗りして学院を出た。
「しっかり掴まって。駆けるよ」
後ろに乗ったかえでがぎゅっとしがみつくと手綱を握ったホーエンローエは馬の下腹を蹴って走らせた。
「ふぇーん」
二人は振動と風切り音で会話をする余裕もなくしばらく南に進んでから街道をはずれると、木々の間に馬を進ませ森に入った。
進むほどに枝や下生えが邪魔になり馬の速度が落ちだすと、今まで激しく上下に揺すぶられ続けていたかえではほっと息を漏らした。
馬に乗るのが初めてだったかえではやっと落ち着いて周囲に目をやることができた。
木々の梢を通して刺す柔らかな日の光で満たされた森の中、りすや小鳥たちが驚いて身を隠すさまはまるで絵本の中でみたワンシーンのようだった。
「うわぁ……きれい」
しばらく森の中を進んでいると、馬がヒヒンと首を振って進むのを嫌がった。
「ここからは先は馬の脚じゃ無理みたいだ」
先に馬を降りたホーエンローエがかえでが降りるのを手伝う。
馬の尻を叩いて学院に向かって送り返すと、ホーエンローエが先に立って森の中を進んだ。
地面は踏み固められておらず、転びそうになる度にかえではホーエンローエに掴まった。何度か転びかけてからはどちらからともなく二人は手をつないで進むことになった。
二人が部屋で見たホログラフの地図の中の神社 は結構な速度で進んでいた。
ホーエンローエは木々の隙間から空を見上げた。もう太陽は真上を過ぎて傾き始めているが、まだ枯れた川のような道にも達していなかった。
「急ごう」
ホーエンローエがかえでの手を強く引いて進み始めたときだった。
「なんか嫌な予感がするんですけど」
かえでの手が震えている。
気が付くと、先程まで聞こえていた小鳥のさえずりなどが止んでいる。
ホーエンローエは空いた手でベルトから杖を抜き周囲を見渡す。
何の気配も感じられないが、かえでは血の気を失って青い顔をしている。
ホーエンローエはかえでを引いて走り始めた。
11話へ進む
(web拍手のお陰で飛ばして行けます。着いてくるには「急げ急げ」と書き込んでください)
「しっかり掴まって。駆けるよ」
後ろに乗ったかえでがぎゅっとしがみつくと手綱を握ったホーエンローエは馬の下腹を蹴って走らせた。
「ふぇーん」
二人は振動と風切り音で会話をする余裕もなくしばらく南に進んでから街道をはずれると、木々の間に馬を進ませ森に入った。
進むほどに枝や下生えが邪魔になり馬の速度が落ちだすと、今まで激しく上下に揺すぶられ続けていたかえではほっと息を漏らした。
馬に乗るのが初めてだったかえではやっと落ち着いて周囲に目をやることができた。
木々の梢を通して刺す柔らかな日の光で満たされた森の中、りすや小鳥たちが驚いて身を隠すさまはまるで絵本の中でみたワンシーンのようだった。
「うわぁ……きれい」
しばらく森の中を進んでいると、馬がヒヒンと首を振って進むのを嫌がった。
「ここからは先は馬の脚じゃ無理みたいだ」
先に馬を降りたホーエンローエがかえでが降りるのを手伝う。
馬の尻を叩いて学院に向かって送り返すと、ホーエンローエが先に立って森の中を進んだ。
地面は踏み固められておらず、転びそうになる度にかえではホーエンローエに掴まった。何度か転びかけてからはどちらからともなく二人は手をつないで進むことになった。
二人が部屋で見たホログラフの地図の中の
ホーエンローエは木々の隙間から空を見上げた。もう太陽は真上を過ぎて傾き始めているが、まだ枯れた川のような道にも達していなかった。
「急ごう」
ホーエンローエがかえでの手を強く引いて進み始めたときだった。
「なんか嫌な予感がするんですけど」
かえでの手が震えている。
気が付くと、先程まで聞こえていた小鳥のさえずりなどが止んでいる。
ホーエンローエは空いた手でベルトから杖を抜き周囲を見渡す。
何の気配も感じられないが、かえでは血の気を失って青い顔をしている。
ホーエンローエはかえでを引いて走り始めた。
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August 30, 2006
月刊コミックアライブのルイズお座りフィギュア応募詳細
創刊号と創刊2号の応募券を創刊3号の応募台紙に貼り、1,000円(本体500円+送料500円)の定額小為替を同封して応募。
500円ならこの出来は仕方がないかなぁ、と。まぁ、ルイズに見えなくもないし、細かいところまで見ると再現率高そう。
月刊コミックアライブ創刊号(送料込み499円)
月刊コミックアライブ創刊第2号(送料込み499円)
月刊コミックアライブ創刊第3号(送料込み499円)
月刊コミックアライブ オフィシャルサイト/ルイズおすわりフィギュア全員サービス企画申し込み方法発表!!
500円ならこの出来は仕方がないかなぁ、と。まぁ、ルイズに見えなくもないし、細かいところまで見ると再現率高そう。
月刊コミックアライブ創刊号(送料込み499円)
月刊コミックアライブ創刊第2号(送料込み499円)
月刊コミックアライブ創刊第3号(送料込み499円)
月刊コミックアライブ オフィシャルサイト/ルイズおすわりフィギュア全員サービス企画申し込み方法発表!!
August 25, 2006
ゼロの使い魔SS「ご主人様の憂鬱」第9話
「ふーむ」
ホーエンローエの話を聞き終わってオスマンは大きく頷いた後しばらく考え込んだ。
「学院に古くから伝わる春の使い魔召還の儀式の歴史の中に、サモン・サーバントの呪文で使い魔以外のものを召還した例はない」
かえでの顔から血の気が引いて真っ青になる。
「あの、でも、私この世界のこと何も」
「わしも無駄に長生きしてきたが、口のきける使い魔に会うたのは初めてじゃ。じゃから、使い魔がどんな気持ちで召還されてきたのか聞いたことはない。じゃがどんな使い魔も契約した主人と気持ちを通じあわせておった」
かえでとホーエンローエは顔を見合わせた。
「じゃ、じゃあ、やっぱり私、きっと何かの間違いで」
「でも、コントラクト・サーバントは成功して、ルーンも」
かえでの発言をさえぎってホーエンローエは慌てて主張する。
「まぁまぁ、二人とも落ち着きなさい。で、そのルーンじゃが学院にあるどの書物にも記載されてないようじゃの」
いつの間にか使い魔のねずみのモートソグニルがオスマン氏の肩に乗ってちゅうちゅうと耳打ちしていた。
かえでが胸のルーンが刻まれたと思しきあたりをセーラー服の上から手でぎゅっと押さえると、布地が胸に押し付けられてその形と大きさが強調された。
ホーエンローエはそれに気を取られまいと意識を他の事に集中したが、オスマンは眼福とばかりに鼻の下を伸ばして凝視する。
「あの、校長先生。私が本当に使い魔かどうか確かめる方法はないんですか」
「お、おほん。なぜ自分が使い魔に選ばれたのか、始祖ブリミルの意思を尋ねる方法があるかもしれん。これを見よ」
オスマンが杖でテーブルを叩くと、箱庭のホログラフが浮かび上がった。
「おお」
思わずかえでとホーエンローエは感嘆の声を上げた。
「ここが学院じゃ」
学院の周囲の森や山が精密に再現された箱庭の中のマッチ箱ほどの大きさの家の模型を指して言う。
「南に下ると森の中に枯れた川のような道がある。これを西に向かって進む神社 の隊列がある。今はこの辺かの」
箱庭の中にぽんっと馬車の模型のホログラフが現れる。
「神社 ……移動する神社 ですか」
「いかにも。わしが昔世話になった巫女 がおるからこの招待状を持って訪ねるがよかろう」
オスマン氏が杖を振るうと羊皮紙と羽根ペンが現れ、宙で羽根ペンがすらすらと何かを書き記した。
最後の行にオールド・オスマンが自分でサインを書き入れると、羊皮紙は勝手にするすると巻き上がり、リボンと蝋で自動的に封緘された。
かえでとホーエンローエはホログラフの箱庭、中でもきちんと脚を交互に上げて進む馬車の模型の動きに見とれていた。
「ほれ、早く出発せんと追いつけなくなるぞ」
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ホーエンローエの話を聞き終わってオスマンは大きく頷いた後しばらく考え込んだ。
「学院に古くから伝わる春の使い魔召還の儀式の歴史の中に、サモン・サーバントの呪文で使い魔以外のものを召還した例はない」
かえでの顔から血の気が引いて真っ青になる。
「あの、でも、私この世界のこと何も」
「わしも無駄に長生きしてきたが、口のきける使い魔に会うたのは初めてじゃ。じゃから、使い魔がどんな気持ちで召還されてきたのか聞いたことはない。じゃがどんな使い魔も契約した主人と気持ちを通じあわせておった」
かえでとホーエンローエは顔を見合わせた。
「じゃ、じゃあ、やっぱり私、きっと何かの間違いで」
「でも、コントラクト・サーバントは成功して、ルーンも」
かえでの発言をさえぎってホーエンローエは慌てて主張する。
「まぁまぁ、二人とも落ち着きなさい。で、そのルーンじゃが学院にあるどの書物にも記載されてないようじゃの」
いつの間にか使い魔のねずみのモートソグニルがオスマン氏の肩に乗ってちゅうちゅうと耳打ちしていた。
かえでが胸のルーンが刻まれたと思しきあたりをセーラー服の上から手でぎゅっと押さえると、布地が胸に押し付けられてその形と大きさが強調された。
ホーエンローエはそれに気を取られまいと意識を他の事に集中したが、オスマンは眼福とばかりに鼻の下を伸ばして凝視する。
「あの、校長先生。私が本当に使い魔かどうか確かめる方法はないんですか」
「お、おほん。なぜ自分が使い魔に選ばれたのか、始祖ブリミルの意思を尋ねる方法があるかもしれん。これを見よ」
オスマンが杖でテーブルを叩くと、箱庭のホログラフが浮かび上がった。
「おお」
思わずかえでとホーエンローエは感嘆の声を上げた。
「ここが学院じゃ」
学院の周囲の森や山が精密に再現された箱庭の中のマッチ箱ほどの大きさの家の模型を指して言う。
「南に下ると森の中に枯れた川のような道がある。これを西に向かって進む
箱庭の中にぽんっと馬車の模型のホログラフが現れる。
「
「いかにも。わしが昔世話になった
オスマン氏が杖を振るうと羊皮紙と羽根ペンが現れ、宙で羽根ペンがすらすらと何かを書き記した。
最後の行にオールド・オスマンが自分でサインを書き入れると、羊皮紙は勝手にするすると巻き上がり、リボンと蝋で自動的に封緘された。
かえでとホーエンローエはホログラフの箱庭、中でもきちんと脚を交互に上げて進む馬車の模型の動きに見とれていた。
「ほれ、早く出発せんと追いつけなくなるぞ」
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ヤマグチノボル、ストライク・ウィッチーズのノベライズを担当
ストライク・ウィッチーズ スオムスいらん子中隊がんばる 空飛ぶ”いらん子”乙女たち
10/1発売580円。
web KADOKAWA ストライク・ウィッチーズ
ストライクウィッチーズ公式
ストライクウィッチーズスレ
10/1発売580円。
web KADOKAWA ストライク・ウィッチーズ
ストライクウィッチーズ公式
ストライクウィッチーズスレ
August 22, 2006
ゼロの使い魔SS「ご主人様の憂鬱」第8話
ホーエンローエの部屋のベッドの上で、一人残された夕奈木かえではぼんやりとした顔で自分の置かれた境遇に考えを巡らせていた。
そんな時に扉からガチャガチャと音がしたものだから、飛び上がるほどびっくりして毛布をかぶって隠れた。
鍵を開けて入ってきたのはこの部屋の主で、彼女を使い魔として召還したホーエンローエだった。
「驚かせてごめん」
ホーエンローエは扉に鍵をかけると、文机の椅子をベッドのそばに置いて腰掛けた。
「いえ、平気です。あの……私やっぱり何かの間違いでこっちの世界に来ちゃったんだと思うんです」
「ルーンは刻まれたんだよね」
「はい、多分……」
かえではそのルーンを確かめるように胸元を手で押さえた。
「じゃあ、そのルーンの模様をこの紙に書いて」
ホーエンローエは文机からペンと羊皮紙を取り、ベッドに置く。
かえでは後ろを向いて胸元を覗き込むとそこにあるルーンを書き写し、ホーエンローエへ手渡した。
「え……このルーンは……」
そこに描かれていたルーンは見覚えが無いどころか、ルーンとしての書式を為していない妙な記号だった。
「何なんですか?何かおかしいんですか?」
助けを懇願する表情のかえでに見つめられながら、ホーエンローエは考えをめぐらせる。
図書館で調べられるだろうか、それともコルベール氏にレポートとして提出すれば何か分かるだろうか……。
「ふむ、話はそれとなく聞かせていただいたぞ」
突然ドアの向こうからクラウでもコルベール先生でもない声がした。
「学院長?」
「いかにも。コルベール先生からカメムシの話を耳にしてちょっと気になってな」
ホーエンローエは鍵を開けてオールド・オスマンを部屋に招きいれた。
立派な白ひげをたくわえた白髪の老人を、かえでも恐縮して立ち上がって迎える。
ホーエンローエは学院長に椅子をすすめた。
「驚かしてすまないの。君たちもかけてくれたまえ」
かえではベッドに腰掛け、ホーエンローエもその隣に座った。
「学院長は学院内で起こるあらゆる事件を穏便に解決する職務にある。今の話、わしに相談してみんか」
ホーエンローエはルーンを描いた紙を渡し、サモン・サーバントを唱えてから今までのいきさつを説明した。
9話へ進む
そんな時に扉からガチャガチャと音がしたものだから、飛び上がるほどびっくりして毛布をかぶって隠れた。
鍵を開けて入ってきたのはこの部屋の主で、彼女を使い魔として召還したホーエンローエだった。
「驚かせてごめん」
ホーエンローエは扉に鍵をかけると、文机の椅子をベッドのそばに置いて腰掛けた。
「いえ、平気です。あの……私やっぱり何かの間違いでこっちの世界に来ちゃったんだと思うんです」
「ルーンは刻まれたんだよね」
「はい、多分……」
かえではそのルーンを確かめるように胸元を手で押さえた。
「じゃあ、そのルーンの模様をこの紙に書いて」
ホーエンローエは文机からペンと羊皮紙を取り、ベッドに置く。
かえでは後ろを向いて胸元を覗き込むとそこにあるルーンを書き写し、ホーエンローエへ手渡した。
「え……このルーンは……」
そこに描かれていたルーンは見覚えが無いどころか、ルーンとしての書式を為していない妙な記号だった。
「何なんですか?何かおかしいんですか?」
助けを懇願する表情のかえでに見つめられながら、ホーエンローエは考えをめぐらせる。
図書館で調べられるだろうか、それともコルベール氏にレポートとして提出すれば何か分かるだろうか……。
「ふむ、話はそれとなく聞かせていただいたぞ」
突然ドアの向こうからクラウでもコルベール先生でもない声がした。
「学院長?」
「いかにも。コルベール先生からカメムシの話を耳にしてちょっと気になってな」
ホーエンローエは鍵を開けてオールド・オスマンを部屋に招きいれた。
立派な白ひげをたくわえた白髪の老人を、かえでも恐縮して立ち上がって迎える。
ホーエンローエは学院長に椅子をすすめた。
「驚かしてすまないの。君たちもかけてくれたまえ」
かえではベッドに腰掛け、ホーエンローエもその隣に座った。
「学院長は学院内で起こるあらゆる事件を穏便に解決する職務にある。今の話、わしに相談してみんか」
ホーエンローエはルーンを描いた紙を渡し、サモン・サーバントを唱えてから今までのいきさつを説明した。
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August 18, 2006
ゼロの使い魔SS「ご主人様の憂鬱」第7話
「遅くなってすみません」
寮の玄関から駆け足で中央広場へと飛び出してきたホーエンローエはそう言いながらコルベールのもとへ駆け寄った。
「おお、何をしていたのかね」
「実は」
広場の中央ではルイズを中心にちょっとした騒ぎが起こっているようで、生徒達はそちらに群がっていて、コルベール先生との会話を聞かれる心配はなかった。
「呪文の練習をしている間にサモン・サーバントが発動してしまいまして」
「成功したのかね」
「はい……ただ、カメムシだったので」
「か、か、カメムシとな」
平静を装おうとしていたが、コルベールの動揺は隠しきれていなかった。
「奇遇だな、ホーエンローエ。僕も昆虫だ。ほら、先生、もうこんなに仲良くなりましたよ」
いつの間にか背後に立っていたクラウが、手に乗せたオオセンチコガネを優しく撫でながら口を挟んできた。
「そ、そうだ……な、何も問題はない……昆虫も立派な使い魔になる」
「そうですよね、コルベール先生ならそう仰ってくださると思っていました」
「で、コントラクト・サーバントは」
「はい、無事に。強烈な臭いでしたが」
「……そうかね。で、ルーンも刻まれたのだな」
「はい」
ホーエンローエは返事をしながらポケットを探る振りをした。
「いや、よ、よろしい。ルーンについては後ほどレポートを提出するように。二人とも下がってよろしい」
「はい、失礼します」
クラウとホーエンローエは会釈して数歩下がると、顔を見合わせて笑いあった。
「見たかい、あの顔。ひどいよな、こんなにかわいいのに」
クラウは手のひらに乗せたオオセンチコガネを口元に寄せるとくちびるを突き出してキスをする振りをした。
「君のカメムシも見つかったら紹介してくれよ」
「ああ、部屋に戻ってるかもしれないから探してくるよ」
(本文が省略されました。続きを読むには昆虫!昆虫!と書き込んでください)
第8話へ進む
寮の玄関から駆け足で中央広場へと飛び出してきたホーエンローエはそう言いながらコルベールのもとへ駆け寄った。
「おお、何をしていたのかね」
「実は」
広場の中央ではルイズを中心にちょっとした騒ぎが起こっているようで、生徒達はそちらに群がっていて、コルベール先生との会話を聞かれる心配はなかった。
「呪文の練習をしている間にサモン・サーバントが発動してしまいまして」
「成功したのかね」
「はい……ただ、カメムシだったので」
「か、か、カメムシとな」
平静を装おうとしていたが、コルベールの動揺は隠しきれていなかった。
「奇遇だな、ホーエンローエ。僕も昆虫だ。ほら、先生、もうこんなに仲良くなりましたよ」
いつの間にか背後に立っていたクラウが、手に乗せたオオセンチコガネを優しく撫でながら口を挟んできた。
「そ、そうだ……な、何も問題はない……昆虫も立派な使い魔になる」
「そうですよね、コルベール先生ならそう仰ってくださると思っていました」
「で、コントラクト・サーバントは」
「はい、無事に。強烈な臭いでしたが」
「……そうかね。で、ルーンも刻まれたのだな」
「はい」
ホーエンローエは返事をしながらポケットを探る振りをした。
「いや、よ、よろしい。ルーンについては後ほどレポートを提出するように。二人とも下がってよろしい」
「はい、失礼します」
クラウとホーエンローエは会釈して数歩下がると、顔を見合わせて笑いあった。
「見たかい、あの顔。ひどいよな、こんなにかわいいのに」
クラウは手のひらに乗せたオオセンチコガネを口元に寄せるとくちびるを突き出してキスをする振りをした。
「君のカメムシも見つかったら紹介してくれよ」
「ああ、部屋に戻ってるかもしれないから探してくるよ」
(本文が省略されました。続きを読むには昆虫!昆虫!と書き込んでください)
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August 17, 2006
ゼロの使い魔SS「ご主人様の憂鬱」第6話
「……運命?」
「呪文を唱えた魔法使いに最もふさわしい使い魔が召還されるんだ」
「……私が使い魔?」
「そう、身体のどこかに使い魔のルーンが刻まれているはずだ」
彼女はがばっと身を起こすと水兵服の襟元から自分の胸を覗き込み、そこに何かを見つけると涙目でホーエンローエへ詰め寄った。
「ルーンって」
「ルーンは主人と使い魔の契約のしるしだな。どちらかが死ぬまで契約は有効だ。ところで、どこにどんなルーンが」
と、覗こうとしたが両手で押し返された。
「……ダメ、見せられない、禁止」
ともあれ、ルーンが刻まれているということは、コントラクト・サーバントは成功したと見ていいだろうと胸をなでおろした。
「僕の名はホーエンローエ・シリングフェスト。よろしく、えーと」
手のひらを上に向けて下から手を差し出す。彼女はぼんやりと前方に視線を落としたまま手を重ねた。しっとりとした肌に包まれた丸みのある柔らかな手が震えていた。
「夕奈木かえでです」
変わった名前だが響きに温かみがある、とお世辞でも言おうと思ったが今はそっとしておいた方がいいだろうと思い留まった。
唐突にコンコンとドアを叩く音が響く。
少女はびくっと身を震わせると、慌てて左右を見渡し隠れるところを探した。
「はーい」
ホーエンローエは返事をしながら、ベッドから毛布を引きはがし少女の肩へかけてやった。彼女は鼻先まで毛布を引き上げ、ベッドのすみで小さく丸まった。
「どちら様?」
扉を開けずにドア越しに問いかける。
「俺だけど」
声の主はクラウ、ホーエンローエのクラスメイトで落ちこぼれ仲間のリーダー格だ。魔法の腕はからっきしだが、明るさと同い年とは思えないほど面倒見の良さで人気があった。
「先生が探してたぞ。早くしないと日が暮れちまうぞ」
誰ともつるもうとしないホーエンローエの事を事あるごとに気にかけて、声をかけてくれるのだった。
「あ、ああ……」
「何だよ、幻獣じゃなかったら恥ずかしいとか悩んでるのか」
幻獣……なのかな、とホーエンローエはベッドの上の少女に目をやった。彼女は目が合うとぶるぶると首を横に振った。
「ヘビでもトカゲでもカエルでもいいじゃねぇか。俺なんてオオセンチコガネだぜ」
「成功したのか。おめでとう。スカラベなんてセンスあるじゃないか」
「ありがとよ。キスはちょっと戸惑ったけどな。お前も早くやってみろ」
キスのくだりに彼女が気付かなければいいが、きっとショックでそれどころじゃないだろう。
「分かった。すぐに行くから」
そうして会話を切り上げると、クラウの足音が十分遠ざかるまでホーエンローエはドアに耳をつけていた。
(本文はまだまだ続きます。皆さんの応援が原動力です。頑張ります)
第7話へ進む
「呪文を唱えた魔法使いに最もふさわしい使い魔が召還されるんだ」
「……私が使い魔?」
「そう、身体のどこかに使い魔のルーンが刻まれているはずだ」
彼女はがばっと身を起こすと水兵服の襟元から自分の胸を覗き込み、そこに何かを見つけると涙目でホーエンローエへ詰め寄った。
「ルーンって」
「ルーンは主人と使い魔の契約のしるしだな。どちらかが死ぬまで契約は有効だ。ところで、どこにどんなルーンが」
と、覗こうとしたが両手で押し返された。
「……ダメ、見せられない、禁止」
ともあれ、ルーンが刻まれているということは、コントラクト・サーバントは成功したと見ていいだろうと胸をなでおろした。
「僕の名はホーエンローエ・シリングフェスト。よろしく、えーと」
手のひらを上に向けて下から手を差し出す。彼女はぼんやりと前方に視線を落としたまま手を重ねた。しっとりとした肌に包まれた丸みのある柔らかな手が震えていた。
「夕奈木かえでです」
変わった名前だが響きに温かみがある、とお世辞でも言おうと思ったが今はそっとしておいた方がいいだろうと思い留まった。
唐突にコンコンとドアを叩く音が響く。
少女はびくっと身を震わせると、慌てて左右を見渡し隠れるところを探した。
「はーい」
ホーエンローエは返事をしながら、ベッドから毛布を引きはがし少女の肩へかけてやった。彼女は鼻先まで毛布を引き上げ、ベッドのすみで小さく丸まった。
「どちら様?」
扉を開けずにドア越しに問いかける。
「俺だけど」
声の主はクラウ、ホーエンローエのクラスメイトで落ちこぼれ仲間のリーダー格だ。魔法の腕はからっきしだが、明るさと同い年とは思えないほど面倒見の良さで人気があった。
「先生が探してたぞ。早くしないと日が暮れちまうぞ」
誰ともつるもうとしないホーエンローエの事を事あるごとに気にかけて、声をかけてくれるのだった。
「あ、ああ……」
「何だよ、幻獣じゃなかったら恥ずかしいとか悩んでるのか」
幻獣……なのかな、とホーエンローエはベッドの上の少女に目をやった。彼女は目が合うとぶるぶると首を横に振った。
「ヘビでもトカゲでもカエルでもいいじゃねぇか。俺なんてオオセンチコガネだぜ」
「成功したのか。おめでとう。スカラベなんてセンスあるじゃないか」
「ありがとよ。キスはちょっと戸惑ったけどな。お前も早くやってみろ」
キスのくだりに彼女が気付かなければいいが、きっとショックでそれどころじゃないだろう。
「分かった。すぐに行くから」
そうして会話を切り上げると、クラウの足音が十分遠ざかるまでホーエンローエはドアに耳をつけていた。
(本文はまだまだ続きます。皆さんの応援が原動力です。頑張ります)
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